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夜の町、佐賀市愛敬。飲み屋街の一角にある小さなビルの2階に、その店はあった。『アトリエ煉瓦』。美しい夕日や森、夕暮れの町並みなどの風景画が壁一面に飾られた店内は、素朴で温かく、まるでヨーロッパの片田舎にある居酒屋のような空気に包まれている。
バーテンダーとしてお客をもてなすこの店のオーナーは、荒川徳臣さん。少年のような瞳が印象的な彼は、店に飾られた絵を描いた本人、つまり画家でもある。
「絵を描くというのは、自分が神様になれる世界なんです。僕が描いているのは風景画だけど、その形や位置の正確さより、風の向きや空気のぬくもりを思い出しながら描いています」。
中学の時から独学で油絵を始めた荒川さんが、本格的に描き始めたのは19歳の時。失恋をきっかけに単身渡ったニュージーランドでのことだった。
「何のツテもなく、言葉もよく分からないから、3日間はバスにも乗れなかったんです。でも、ある日、夕日のきれいな場所でスケッチをしていたら、一人のおじいさんが『ここは僕の土地だよ』って声をかけてきて、『絵を描きたいならここに小屋を建てるといい』って言ってくれたんです。人ってやさしいな、触れ合いっていいなと思いましたね。それから、小屋を建てて、絵を描きながら、おじいさんといろんな話をしました。たくさんの仲間もできました。
1年半後、そのおじいさんは亡くなったのですが、彼が与えてくれた愛や、教えてくれたことは、僕にとってかけがえのない宝物になりました」。
おじいさんとの思い出を胸に日本に帰ってきた荒川さん、『人との触れ合いを大切にし、多くの人たちが集える場所をつくりたい』と、福岡でバーテンダーの勉強をし、23歳の時に今の店をオープンした。
現在も1年に2回は海外に行って絵を描いているという荒川さん。行くたびに新しい人との触れ合いがあり、新しい風景に出会えることが楽しみだと言う。
また、画家としての活動のかたわらでは、店のお客と柔道をしたり、バスケットボールチームを作ったり、ロッククライミングをしたり、同じビルで上演している芝居の脚本を描いたりと、多方面で仲間の輪を広げている。
「この店には、多業種の人たちが集まってくるのですが、みんな輝いていて魅力のある人たちばかり。佐賀ってほんと捨てたもんじゃないんです。そんな仲間と一緒に、この土地ならではの文化を作っていきたい。福岡の真似ではなく、佐賀だからできることをやっていきたいなと思います」。
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