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連載 第18回
ノーベル物理学賞受賞
益川敏英氏をインタビュー

聞き手:佐賀大学名誉教授 近藤弘樹


益川敏英 Maskawa Toshihide 経歴/名古屋大学特別教授、名古屋大学素粒子宇宙起源研究... ≫詳細


科学は人々に自由を与えるもの
【近藤】益川さんは、極微の世界、素粒子・原子核の世界を明らかにする科学を研究されてきました。その科学を応用した原子力発電で福島第1原発のような事故が起きてしまいました。自然を明らかにすることに生きがいを掛けて来た科学者として、2011年3月の福島第1原発事故を目の当たりにしてどんな風に思われましたでしょうか?
【益川】非常に残念でした。科学は人々に自由を与えるものだ、と僕は思っているんです。科学は人々の願いを実現するもの、つまり、人々の幸福に役立たなければいけない。

 原子力発電に応用されている原子核の世界は、前世紀、二十世紀の前半に、世界の科学者が協力して明らかにして来ました。1940年代に原子核から巨大なエネルギーを取り出すことができることが分かりました。ナチスドイツが先に原子爆弾を作ることを恐れて、当初、科学者は原爆の開発に協力しました。しかし、ナチスドイツが原爆を作る可能性が無い、と分かったとき、開発を推進した科学者も、原爆を実際に使うこと、日本に投下すること、には反対しました。

 原子力発電についても、日本で原子力発電を行おうという話が起きた1950年代に日本の素粒子・原子核分野の研究者は、原子力の平和利用に協力的に参加しました。しかし、原発は発電と同時に人体に有害な放射性物質を大量に作り出すので、慎重に開発を進めなければならない、ということを強力に何度も日本学術会議を通じて政府に申し入れています。  そうした経緯があった上の事故なので、とても残念に思っています。


エネルギー問題 ~300年先を考えることと、それまでのつなぎとしての現実的な選択を~
【益川】僕はエネルギー問題は、300年、400年先のことを考えながら、10年、20年の単位で現実的な選択をして行かなければならないと思っています。
 まず10年、20年先を考えても、エネルギー問題は深刻だと思う。世界の人口は70億人を越えています。現在の発展途上国の人々が日本人やアメリカ人と同じ文化的な生活をしたい、と言ったらエネルギー供給はどうしたら可能になるのだろう? 非常に深刻な問題です。

 再生可能な電力源と言っても重大な問題を抱えています。風力発電が有力だと言われています。風力発電は、風が無ければもちろん発電できないけれど、台風などが来て風が強過ぎても風車を止めなければなりません。風力で発電ができない時のために、風力発電と同じ量の代替の発電源を用意しなければなりません。太陽光発電も同じです。陽が当たらなければ発電されません。発電可能な時間と需要がある時間とのずれの問題は深刻です。
 ずれを埋めるには電気を貯めておく蓄電が必要ですが、蓄電の技術は現在必要とされる程度にはできていません。例えば、揚力発電が比較的コストが安い、と言われていますが、何処にでも幾つでもダムを作る訳には行きません。
 発電の適地と需要の場所のずれの問題もあります。蓄電と発送電を組み合わせて、安定した安全なシステムを作るという課題があります。

 現在は、10年先、20年先を考えて、安全で実行可能な電力需給システムを、いろいろな可能性を考えて、研究開発をして行かなければいけません。今の研究開発体制は、企業や個々の研究機関にお任せ、みたいなところがあります。システムとして取り組んでいないように思います。再生可能エネルギーも含めて各種のエネルギーを社会で使って行くときに、これを使ったときに使う為に何が必要かと、どんな問題が出て来るかなど、利用技術を研究する国の知恵を結集したような総合的なプロジェクトが必要だと思います。







300年先のエネルギー問題

  【益川】エネルギー問題は、10年、20年の単位で考えたことだけではなく、300年、400年先まで考えたことを共通の認識として持っている必要があると思います。人類は、10万年、100万年生き続けることを期待すべきでしょう。その時にどのようなエネルギー源が使えるか、化石燃料もある内に研究開発をして行くべきだと思います。
 300年先のことを考えてもその内容が間違っていることは十分にあり得ます。例えば化石燃料が300年で底をつくというけれども、そんなものに頼らなくて良いものが出て来るかも知れません。今は無い訳ですね。そういうものは最終結論では無くて、思考実験のようなものですよね。こういうことが起こり得る、ということを心に留めておいて現実的なものに対応して行く、という方法が必要なのだと僕は思います。

 オイルシェールが出て来てアメリカが潤っているとの話があります。オイルシェールの量はそんなに多くはない筈です。300年で無くなる化石燃料が400年保つというその位の量の話だと思います。これから300年の間には何ごとが起きるか分かりません。

 僕は、最終的には核融合しか無いと思います(注参照)。しかし、今の段階では核融合もエネルギー源としての実用から程遠い状態です。まだ決して使えるものになってはいません。原子核融合炉に使える現在知られている核融合反応では必ず大量の中性子が発生します。その中性子で炉壁が損傷を受けてしまいます。中性子をどうやって遮蔽して、炉の外に出てこないようにするかも問題です。中性子はそれ自体放射線なので人や生物には有害です。
 核融合を安定的に使えるように研究する国際的な仕組みが必要だと思います。ヨーロッパと日本で研究を進める組織はあるのだけれども、まだ十分だとは言えないと思います。
 (近藤注:原発(核分裂)、潮力発電、地熱発電や電池に依る発電を除いて、現在人類が行っている他の全ての発電は太陽光のエネルギーに依っています。その太陽のエネルギーは核融合反応に依って生み出されています。太陽は核融合により45億年間輝き続けており、今後63億年程度核融合が続くとされています。)


子どもたちの未来に向けて ~大人への提言~

【近藤】益川さんは、子どもたちと科学についても発言されていますね。
【益川】僕が一番気になっているのは、受験競争みたいなものが、子どもたちの向学心を歪めていることです。小学校の3年位までは、理科がみんな好きなんですよ。それがだんだん理科嫌いになって行く。毎回試験をやって「お前はこれ位だよ。」と言われたら楽しくないよね。理科や自然科学は面白いんだよ、と、もっと積極的に子どもたちに伝えるシステムが要ると思います。好きな子は、本当に好きなんだよね。

 「どうしてそうなの?」と言う問いは人間の基本的な問い掛けなんだよね。それを発しなくしていってしまう。理科や数学でもそうだけど、「憶える」ということにして仕舞うのだよね。それは楽しくない。
 日本全体として考えることが弱くなっています。考えることを「ダサい」と受け止めてしまう。手っ取り早く答が欲しい、となっています。本来は、その前の考えることが楽しいはずだよね。憶えてしまうという今の教え方は良くないことを、先生たちは知っていると思うのだけど、今の社会では、子どもたちに考えて貰う余裕が無いということになってしまっているんですよね。
 試験でも今は、共通一次とか、大学入試センター試験とかに、生徒も先生もエネルギーを取られ過ぎています。試験に力を入れ過ぎないで、問題はシンプルにして、先生、生徒が掛ける労力を減らす。そしてその余裕ができた時間を楽しい話にする、ということが必要だと思います。


あこがれをサポートする体制を

  【益川】青少年が科学に近付き、理解し、将来科学者になって行く道は、僕は、一番最初はあこがれ、だと思うんだよね。アインシュタインという人が居て、「動いている座標に依って時計の進み方が違うのだ」と言っているとね。「そんな馬鹿な!」と思う訳ね。でも世界中の優秀な科学者たちがそれを認めているということは、それを理解しなければいけない、信じなければいけない根拠があるに違いない、と。そういうものを自分も早く知りたいな、とか。そう言うあこがれがあって近付く、と。最初は「あこがれ」だと思います。 その次には、僕は「ドン・キホーテの定理」と言っているのだけど、始めあこがれたときに、子どもは背伸びをします。ドン・キホーテは騎士にあこがれて、痩せ馬に乗って、従者サンチョ・パンサを引きつれ遍歴の旅に出かけた。青少年たちもそういうフェーズ(段階)があるのだろうと思います。あこがれて、あこがれた以上は何かしたくなる。それであちらにぶつかり、こちらにぶつかりしながら成長して行く。そこのところをサポートする体制が要るのだと思います。


大学の退職教員は高校のクラブ活動へ

【益川】 僕はいろんなところで言っているのだけれども、大学を定年退職した人がね、 高校のクラブ活動に参加すると良いと思います。コーヒー代と交通費位を出して貰って。大学の先生も多少自分のした研究の話もできるし、何よりも、若い人とわいわいするのは楽しいからね。高校の先生もリフレッシュできます。







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