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連載 第13回
原発労働者

執筆者

福井市男 Fukui Ichio 経歴/京都大学大学院卒、佐賀大学理工物理学科助手... ≫詳細


原子力発電所での労働は、きれいに整頓された制御室でのコンピュータによる少人数の仕事だと思っていませんか?
原発定期検査

 原発は、電気事業法にもとづいて、13ヶ月に一度の定期検査が義務付けられています。この定期検査の際、原子炉建屋内での作業は300種類にもおよびます。主要な構造物の検査の他に、原子炉格納容器の除染、炉内の諸計器類の点検・修理、冷却系配管のピンホール・ひびの有無の点検・補修、配管の取り替え、汚染水タンクの清掃、機械器具のさび落とし、放射性廃棄物の仕分け・焼却と残存物の運び出し、防護服の洗濯などです。
 運転を停止しての定期点検となると、作業は安全だと思えるでしょうが、とんでもありません。原子炉建屋内、とくに炉心に近いところでの作業員は必ず相当量被曝します。
 除染は、建屋内の床やパイプなどに付着している、放射能を帯びた粉塵をウエス(雑巾)を用いて拭き取る作業です。パイプまわりの狭い場所にまで潜り込んで除染を行ない、放射能の濃度を下げた後に技術者が入って本来の作業をします。
 これらの危険な作業は通常3ヶ月程度、トラブルが見つかった場合はさらに長期間かけて行なわれます。


原発の雇用構造―多重下請

 電力会社は原子炉および関連機器の点検・修理のための技術・部品を充分に持っていないため、作業は技術力のある原発メーカー(日立・東芝・三菱)に請け負わせるということになります。
 事故前の福島原発では、定期点検時の従業員数は第一原発(全6基)で約6000人、第二原発(全4基)で約3000人、計10000人近くが雇用されていました。会社数は、第一原発で約350社。東電を頂点に原子力メーカー(元請け)⇒東電・メーカーの子会社 ⇒大手・中堅会社⇒小工事会社⇒一人親方など、ピラミッド型の多重下請構造で構成されていました。日本弁護士連合会が聞き取り調査をした人が言うには、東電からは、作業員の日給としては一人8万円~10万円に近い金額が出ていると思うと。元請け(原発メーカー)が一次下請け業者に下ろす際の、作業員一人当たりの日給は2万5千円以内。二次三次四次と下請けを経由するごとに15%くらいの手数料をとります。一番下の作業員で1万~1万3千円。若い人だと8千円になってしまうこともあります。(参考文献1、2) 原発産業は他の産業より一層下請け依存型になっています。






労働者被曝の実態

 原発の作業では放射線の被曝は避けられません。労働安全衛生法には「仕事の上で被曝せざるを得ない場合には」という前提で、「5年間で100mSv(ミリシーベルト)を超えず、かつ1年間で50mSvを超えない」(電離放射線障害防止規則、通称「電離則」)と被曝限度が設定されています。実際にはどうなのでしょうか。

 以下に、福島事故後の6月に開かれたシンポジウム「そこで働いているのは誰か――原発における被曝労働の実態」がWEBRONZAで公開されています。(注1) その中から、被曝労働者問題を追い続けてきた写真家樋口健二さんの話と元原発労働者の証言の一部を挙げます。

 ★[樋口さんの話]
「がんで無くなった労働者は、毎日、 宇宙人のような格好をして防毒面を着けたけど、暑くて苦しくてこんなものはいつも外して働いていた。何十分かでアラームメーターが鳴る。うるさいから仕事ができないからとアラームメーターも外して仕事をしていたと言っていました。これを聞いて、いったい原発はどういうところなんだという思いが自分に募ってきたのです。原発を40年間ささえて、しまいにはボロ雑巾のように捨てられ続けてきたのが下請け労働者です。ところが、原発の下請け労働者の実態を、みなさんのほとんどが知らない」。

 ★[福島原発で働いていた下請け労働者の証言]
 「3次下請けって言っても3次下請けが実際に持っている従業員じゃないんですよ。原発40年の歴史を支えてきたのは日雇い労働者なのです。原発の炉心での仕事では、最初は線量計があってもアラームが鳴ってうるさいものだから線量計を外してしまう。そのため線量計をあずかる係の人がいたぐらいだ。アラームが鳴っても無視してしまうから『鳴き殺し』と呼んでいた。仕事が終わったあと線量計は2~3ミリシーベルトになっていたが、放射線管理手帳を見たら0.8ミリシーベルトと記録されていた。これをみんなは”トリック“と呼んでいた」

 原子力安全基盤機構によれば、2009年度、原発の作業に従事した全国の電力会社員はのべ約9000人、下請企業の社員は74000人で、一人あたり平均被曝線量は電力会社員0.3mSvに対し下請けの社員1.1mSvです。つまり被曝総量の97%を下請の社員が浴びています。(参考文献2)
 作業現場では、特別の防護服・フードマスクを着けますが、高温多湿なためフードが曇って視野がぼやけるから、仕事のノルマを急ぐため危険を承知でマスクを外すこともあります。こうした作業を続けたのち、粉塵を吸って内部被曝により白血病で倒れたが、高線量の外部被曝とちがって因果関係を立証するのが難しく、労災申請の裁判に勝てずにわずかな見舞金で済まされたという労働者の訴えもあります。危険な作業現場には電力会社の社員は現れません。電力会社としては賃金が高く補償金額がかさむ正社員に危険な作業をさせるのは可能な限り避けたいのです。
 また短期間だけの大量業務が必要である上に、被曝限度を超えた労働者をそれ以上使うことはできないから、線量が高い場所での雑作業に送られる労働者は人海戦術的になり「使い捨て」が必至です。
 先に述べた多重請負構造は、ピラミッドの頂点に立つ電力会社にとっては、たいへん都合がよいものです。怪我だけでなく、被曝による放射線障害が生じても表面化しにくいし、都合の悪い情報は極力外部に漏らさない方策が講じられています。実際、放射線障害で労災認定された原発作業員は1976年から2011年までの35年間にわずか10人(申請48件)にすぎません。これは電力会社の徹底した隠蔽工作・労災隠しの結果です。(参考文献1、2)

建屋内の原発労働者




フクシマ

 脱原発を宣言したドイツ国営テレビ放送ZDFは、数本のフクシマ特集番組を放映しています。東電が事故調査にまともに対応できなくて、相変わらず隠蔽工作をしている実態を紹介した番組の他、被曝労働者の実態を克明に紹介した番組、『「放射能ハンター」/日本政府は原子力利権という祭壇に、国民を生贄として捧げている(2012/4/29)』というタイトルの番組を放映しました。 この番組の中で、下請け企業が作業員と交わした雇用契約(機密保持条項)、および被曝作業への同意書が映像で報じられています。
『第4条(機密保持)
 乙は、本業務を行うにあたり、東京電力第1原子力構内外を問わず、知り得た情報(書面。あるいは口頭・目視など形態に係わりなく)、厳に機密を保持するものとする。また、各種報道機関からの取材は、業務情報の如何に関わらず一切受けないものとする。』
 福島での被曝労働について、ドイツの報道番組は、この実態は日本型人権蹂躙であると強烈に批判していることを私たちは知っておくべきです。海外で行われているこのような批判が、福島原発事故への不信感、ひいては日本への不信感に繋がっているわけです。日本が危ない! と。      


フクシマの収束作業

 事故後1年経ったとき、東京電力はWHO=世界保健機関に、作業員の被曝線量を報告しました。それによりますと、事故が発生した2011年3月から2012年1月末までに、現場で事故対応にあたって被曝した作業員は20103人で、最年少は18歳、最高齢は84歳でした。このうち、10代の作業員は合わせて64人で、最大の被曝線量は56・89mSvと報告しました。この数値を信じられるでしょうか?平常運転時の定期検査でも、被曝隠しをしてきた電力会社が、この事故処理にあたってまともな被曝管理ができているとは考えられません。東電のでたらめな放射線被曝管理がたくさんの出版物(下記参考文献)で告発されています。驚くべきことに、今春2月28日朝日新聞一面トップの特ダネ記事は、「被曝記録2万人分未提出」の見出しで、東電が事故後の作業員の被曝記録を一元的に管理する「放射線影響協会」にまったく提出していないことがわかったと、報じています。上の協会が発行する手帳への被曝記録が労働者の命綱なのに。
 上記の被曝作業員の大半が下請けの末端に位置する労働者です。このような状況では、将来、癌、白血病その他の疾病が多発発生することが予測されます。福島第一原発の廃炉を終了するまでに40年もの歳月が必要と言われています。その過程でどれだけの労働者が被曝し健康を害することになるのか、考えると恐ろしくなります。

 このように原発は、通常の定期点検時にも、事故処理の作業でも、原発労働者の大多数を占める最下層の下請作業員の犠牲なしには成り立たないシステムなのです。






参考文献
1.『原発事故と被曝労働』 被曝労働を考えるネットワーク編、三一書房、2012年10月
2.『検証 原発労働』日本弁護士連合会編、岩波ブックレット、2012年1月
3.『原発ジプシー』[増補改訂版] 堀江邦夫著、現代書館、2011年5月
4.『ルポ イチエフ』福島第一原発レベル7の現場布施祐仁著、岩波書店、2012年9月
5.『犠牲のシステム 福島・沖縄』高橋哲哉著、集英社新書、2012年1月 

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