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連載 第8回 物質を探る歴史と核エネルギーの発見

執筆者

米山 博志 Hiroshi Yoneyama 経歴/佐賀大学工学系研究科教授。九州大学... ≫詳細


 今回は趣向を変えて、核エネルギーに至るまでの物質を探る歴史を簡単にたどることにします。それは、「原子力に向きあう」ことと科学の歴史とは少なからず切り離せない面もあるからです。

物質とは

 私たちは、水や木々、家具や建物といった様々な物質に囲まれ生活をしています。そういう私たちの身体も物質です。様々の形や性質をもつこれらの物質は一体何でできているのだろうか、という疑問は人間がいだく自然な素朴な疑問のようで、はるか紀元前の古代に遡ります。この時代はもっぱら、考えをめぐらすことによりいろいろな説が出されました。ただ、それらの考えがどんなに巧妙にできていても、本当にそうなのかどうかということが確かめられるようになったのは、時代がずっと下り「実験」というものを通してです。物理学の歴史は、1600年頃にガリレオがピサの斜塔から物を落とす実験をして(これは逸話らしく、実際は斜面を利用して確かめたと言われています)、重い物も軽い物も同時に落下するという落下の法則を見いだしたというところから始まるとも言われています。このように実験を行うことによって、いろいろな考え方が淘汰され、自然の法則が解明されることになっていきました。その結果、物質は多くの種類の元素からできていることがわかって来ました。高校の理科の教科書の裏表紙にあった「元素の周期律表」にあるように、水素から始まる様々な元素が規則的に分類できることに気づき、「周期律表」を完成させるための研究が多くの科学者達によってなされました。

放射能の発見

 19世紀の終わり頃、レントゲンは電子の正体を探る実験をするさなか、偶然にX線を発見しました。それは人体を透過するほどの透過力をもつため、急速に医学への応用がなされたようです(図1)。この発見に触発されたベクレルは、ウランの化合物に太陽の光を当てたときに放出される光の実験をする際、たまたま曇りの日に化合物のそばに置かれていた黒い紙で覆われた写真乾板が感光していることに気づき、ウランから放射線が放出されていることを発見しました。
 この現象に放射能という名前をつけた、かの有名なキュリー夫妻(図2)は、このような自ら放射線を出す新たな物質の存在を予測し、放射性元素(ポロニウム、ラジウム)を発見しました。これらの一連の発見は、物質を探る研究において新しい歴史の扉を開く意味を持っています。

図1

▲レントゲンが撮影した指輪をはめた手の指のX線写真。X線の透過力を示すためこの写真を研究者達に送ったと言われています。

図2

▲キュリー夫妻の実験室での写真。夫のピエールが作った装置を使ってマリーは数トンの材料からわずかな量の放射性物質を抽出した。

 7月号の「放射能って何だろう? 〜煮ても焼いても消えない放射能!〜」の中にあったように、化学反応の際にやりとりされるエネルギーの大きさは、電子が原子にとらえられている程度の大きさになります。一方、放射線が関係する過程では、それに比べてはるかに高い(数百万倍)エネルギーが放出されるのが特徴です。当時は放射線の健康への影響が良く知られておらず、そのためかマリー・キュリーなど当時の多くの科学者が白血病で亡くなっています。
 その高いエネルギーが一体どこから来るのかという疑問をいだいたラザフォードは、高いエネルギーを持った粒子を人工的に標的にぶつけてその反応を見るということを行い、元素が互いに移り変わり得るということを発見しました。このことは、原子の内部で大きなエネルギー変化を伴う物質の変化が起こっていることを示唆しています。 この高いエネルギーを持った粒子をぶつけてその反応を見るという方法(図3)を用いて原子の内部に迫り、原子の10万分の1程度の大きさにもかかわらず原子の重さのほとんどを占める原子核というものの存在にたどり着きました。これが100年前のことです(1911年)。

図3

 20世紀の始めは、物理の革命が起こったと言われています。その革命の一つは、かの有名なアインシュタインの相対性理論で、それは「時間」「空間」の考え方を全く変えてしまったことによります(1905年)。
 この理論の一つの重要な帰結として、E=mc2という式で有名なエネルギー(E)と質量(m)の新しい関係(同等性)があります(cは光の速さで定数)。質量というのは重さに関係するので、この式は、重さがあればそれをエネルギーに変えることができるということを意味しています。これを先ほどの放射線の場合に適用すると、原子核を構成している何らかの物質が、より小さな質量の物質へ変化し、そのときの質量の差が放射線という形でエネルギーに変換されたというふうに理解ができます。


原子核へ

 ラザフォード等は放射線をアルファ線、ベーター線、ガンマ線と呼び区別をしました。これらの実体はそれぞれヘリウム原子核、電子、エネルギーの高い電磁波です(7月号参照)が、衝突実験の際に出てくる放射線の種類と衝突の前と後での原子核の変化を見る実験をくりかえすことによって、原子核は正電気を帯びた陽子と電気を帯びていない中性子(これらをまとめて核子と呼んでいます)からなることがわかってきました。この中性子は1932年に発見されましたが、1930年代は、急速に原子核についての理解が進んだ時期です。正の電気を帯びた陽子同士には反発力が働くため、原子核を作るためにはこの反発力に勝って核子同士を引きつける非常に強い力の存在が必要です。この力の理論的解明には湯川博士が重要な貢献をし、日本のノーベル賞受賞第1号につながりました。
 天然の放射性原子核はエネルギー(放射線)を放出しながら安定な状態へと変化して行きます。アルファ線の場合は核子の数が4つ、陽子の数が2つ減った原子核へ、ベーター線の場合は、核子の数は変わらないけど陽子の数が1つ増えた原子核へと核の種類が変化をします。放射能をもつ重い原子核はこのような放射線を出しながら変化を繰り返して行き、安定な原子核である鉛に落ち着きます(図4)。

図4



核エネルギー

 人間は、分子、原子、原子核、核子と言った具合に物質の理解を深め、それに基づいた応用を展開してきました。今では、さらにより基本的な物質から構成されているということがわかっています(図5)。このように自然を理解したいという人間の探究心には限りなく、今後も新しい発見がなされ、その発見に基づいた応用が行われるでしょう。発見される自然の法則がどのような役に立つのかはすぐにはわかりません。例えば、現在、身の回りにあふれている携帯電話などの電子デバイスに利用されている電子が見つかったのはおよそ100年程前でした。
 人間はエネルギー無しでは生活をしていくことができず、石油などの化石燃料の資源は有限です。ですから、新しいエネルギー資源を求めて、原子核の中に潜む莫大なエネルギーに目を向けたことは必然的なことだと言えます。しかし、そのエネルギーを利用するための技術は、今のままでは安全に制御できず人間の生命や生活に地球的規模にわたり甚大な被害をもたらす可能性があります。そしてその技術によって産み出された負の遺産は何千世代もの時代にわたって続く監視を必要とします。そのような技術を応用するにあたっては非常に厳しい基準が必要とされるはずです。もしその基準が満たされないとしたら、その開発のためにかけてきた知恵は、これまでとは異なる新しい可能性を探る方向に向けられることが必要でしょう。これから100年後のことは想像もつきませんが、自然の法則についてより深い理解がなされ、人類とうまくつきあっていける技術が探求されていることを信じたいと思います。


科学の発展と応用

 人間は、分子、原子、原子核、核子と言った具合に物質の理解を深め、それに基づいた応用を展開してきました。今では、さらにより基本的な物質から構成されているということがわかっています(図5)。このように自然を理解したいという人間の探究心には限りなく、今後も新しい発見がなされ、その発見に基づいた応用が行われるでしょう。発見される自然の法則がどのような役に立つのかはすぐにはわかりません。例えば、現在、身の回りにあふれている携帯電話などの電子デバイスに利用されている電子が見つかったのはおよそ100年程前でした。
 人間はエネルギー無しでは生活をしていくことができず、石油などの化石燃料の資源は有限です。ですから、新しいエネルギー資源を求めて、原子核の中に潜む莫大なエネルギーに目を向けたことは必然的なことだと言えます。しかし、そのエネルギーを利用するための技術は、今のままでは安全に制御できず人間の生命や生活に地球的規模にわたり甚大な被害をもたらす可能性があります。そしてその技術によって産み出された負の遺産は何千世代もの時代にわたって続く監視を必要とします。そのような技術を応用するにあたっては非常に厳しい基準が必要とされるはずです。もしその基準が満たされないとしたら、その開発のためにかけてきた知恵は、これまでとは異なる新しい可能性を探る方向に向けられることが必要でしょう。これから100年後のことは想像もつきませんが、自然の法則についてより深い理解がなされ、人類とうまくつきあっていける技術が探求されていることを信じたいと思います。

図5


脚注
1. 平成24年理科年表(国立天文台編/丸善出版)P480-481より一部抜粋。
2. 原子力発電については「原子力発電の仕組み(本誌2012年11月号)」を参照してください。
3. この原子炉は、原爆を作る研究に用いられました。

参考文献
1.「科学と発見の年表」アイザック・アシモフ、 小山慶太、輪湖博共訳、丸善
2.「近代科学を築いた人々(上)」 長田好弘、新日本出版社
3.「原子核エネルギーの話」 アイザック・アシモフ、住田健二訳、東海大学出版会
4.「電子と原子核の発見」スティーブン・ワインバーグ、 本間三郎訳、日経サイエンス社
5.「ノーベル賞で語る現代物理学」池内了、新書館

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