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連載 第5回 原子力は何故、人々に襲いかかって来たか
〜原子力ムラの誤り〜

執筆者

近藤 弘樹 Kondo Hiroki 経歴/佐賀大学名誉教授。名古屋大学工電子卒。名大E研と佐大物理で... ≫詳細

科学技術の成果に囲まれた私たちの生活
 この文章を読み始めた皆さん。皆さんの周りに目をやって見ましょう。あなたが部屋の中に居るとしたら、あなたの目に入る物は殆どすべて他の人たちが創った物の筈です。私たちの生活は他の人が創った物により支えられています。

 十七世紀に始まった力学、十八世紀に始まった熱力学に支えられて快適に走る自動車に乗り、十九世紀に出来上がった電磁気学と二十世紀に出来上がった量子力学に支えられているデジタルテレビを見、生物学、農学、食物学に支えられ、料理人の工夫が詰まった美味しい料理を食べて、私たちは生活しています。そしてその自動車やテレビは、石油や電気のエネルギーに依って動いています。

 読者の皆さんは、これら私たちの身の回りの物がどのようにして作られているか、私たちの社会を思い浮かべて、少し振り返って考えて見るのも良いと思います。

 自然に生きる他の動物に比べて比較にならないほど安全で豊かな私たちの生活は、科学技術とそれを実際の生活に生かすように工夫を重ねた人々の努力の賜物です。そしてその科学技術は世界の人々が協力して創り上げたものです。 原爆は数十万人の人々を殺しました
 しかし、科学技術の成果の象徴ともいうべき原子力は、原爆という形で人類に大きな不幸ももたらしました。

 科学は事実を言葉にし、法則を見出し、法則に考察を加えて未来を予測します。技術はその科学を応用し、未来を創り出します。

 原子核の世界の法則を手掛かりに、人類は原子力を手にしました。原子力は、この「原子力!」シリーズの7月号に書かれていたように、少ない量の物質からとても大きなエネルギーを取り出すことができます。エネルギーをゆっくり取り出すのが原発で、一気に取り出すのが原爆です。

 原子力を象徴とする科学技術は人類に大きな力を与えます。だから社会への影響も大きくなります。大きな力は悪い使い方をすれば、社会に大きな害悪をもたらします。その力を、「何のために」、「どうやって安全に」使うか、ということを一生懸命考えなければなりません。 前もって安全確保対策が必要
 原子力発電でエネルギーを取り出すのに使う核分裂連鎖反応は、制御が難しい反応です。小さな異常が原子炉の暴走につながり、燃料が熔けたり、爆発してしまう、という危険性を持っています。クリフエッジ(断崖)効果といいます。

図1


 エネルギーの取り出しに使う原子炉を運転すると高濃度の放射性物質が大量に溜まります。

 放射性物質は自発的に熱を発生し、その塊を放っておくと高温になり溶解したり、爆発したりする危険性があります。

 また、放射性物質からでる放射線は生物に有害なので、その放射性物質をどう処分するか、という問題も発生します。

 制御が難しく、危険な放射性物質を抱える原子炉ですから、利用に際しては、前もって、対策を立てておかなければなりません。十分に安全が確保されないと思ったときには、利用を止める勇気も持たなければなりません。

具体的には、

(1)原子炉は高温の水や水蒸気が流れる配管の巣のようになっています。地震・津波による被害を受ける可能性は大きいです。考えられる最大の地震・津波に対しても安全を確保できるようにする必要があります。

 起き得る地震や津波の規模に不明確なところがあれば、科学の予測力を生かして徹底的に調べる必要があります。

(2)過酷事故の可能性は、これまでの原発事故の経験からも、ゼロにはできません。

 「過酷事故が起きたらどうなるか、事故を想定し、どうしたら国民の被害を最小限にできるかの具体的対策を明示するべきです」

 過酷事故とは、チェルノブイリ事故やスリーマイル島事故のように、原子炉が制御を失い、燃料が高温になって溶け出したり爆発したりして、周囲に放射線や放射性物質をまき散らす事故です。



(3)原子炉を運転すればどうしても放射性物質が溜まります。放射性物質の最終処分について可能な具体的な方策を立て、効用と問題点、費用を計算し国民に示すべきです。



(4)いわゆるテロ攻撃の可能性は否定できない、とすればどのようなテロがあり得て、それをどこまで防げるか、具体的に考えて対策を講じるべきです。



 原子力を安全に利用しようとするならば、これらの課題について多くの分野の専門家の力を結集し科学の予測力を生かして十分考えて対策を立ててから原発の建設に取りかかるべきです。 原子力ムラの人々はどう考えたか
 日本で原発建設を推進した人々は原子力ムラと言われています。元NHK解説委員の小出五郎氏に依ると、原子力ムラはペンタゴン(五角形)と言えて、原発の開発・利用を進めて来た政治家、官僚、企業、専門家、ジャーナリストの5つの集団から構成されています。

 原子力ムラの人々は原発の安全確保の課題にどのように取り組んで来たのでしょうか?

 昨年、2011年夏頃から今年にかけて放映されたテレビ番組や新聞報道でその様子を垣間見ることができました。東電経営関係者や政府の審議会などで原発の推進に関わった原子力ムラの人々の考え方の幾つかを次に挙げます(言葉はテロップのままです)。

●東京電力元副社長「こんな大きな地震が来たらどうなるのだろうと思った反面すぐに起こらないんじゃないかとあすあさって起きることはないでしょう」

●東京電力元副社長「(事故の)可能性があるということを外に向かって言うことはなかなか勇気のいることだった。つまり絶対安全だという、今で言う”安全神話“みたいなものがまかり通っていた」

●アメリカの基準にあるのに日本の基準でなくしたものは、重大事故の際に住民を避難させること。

 住民の避難が立地の条件になれば、原発の立地が困難になるからが理由です。

 科学技術庁原子力安全局元局長「できないんだろうと日本では退避なんかできないんだろうという話だったんですね」、「施設ができたことによって退避させられるようなものだったら(原発は)いらんわいというようなこといくら何でもなったんじゃないでしょうか。原子炉の立地なんか進まなかったんじゃないでしょうかね」

●過酷事故に対する対策は電力会社に任されて来ました。過酷事故に対する対策を「規制」にするか、電力会社の「自主対策」かの選択がありました。

 東京電力元副社長「全国の電力会社の意見を聞いた。(規制にすることに)とても抵抗があったのは確かですね。現実的にそういうことが起こることはあまり考えられなかったしそういうことで外向きの説明をやってきたわけですね。

 これはなかなかこれまで築き上げた地元との信頼関係だとか皆さんが自分の中で築き上げた安全に対する考え方をぶち壊す話ですから」

●2001年から原子力安全委員会で津波の議論をした。議論を5年掛けてした。津波の議論は深まらなかった。津波は地震随伴事象とされ殆ど議論されませんでした。

 原子力安全委員会専門委員から津波来襲の可能性について警告が出されたが、津波の議論はわずか2回で終わった。安全指針での津波の記述は2行に留まりました。

●東京電力は500年のデータで津波を試算しました。1938年塩屋崎沖地震で5・7mとの結論を得た。国の地震調査委員会の指摘で再計算をすることになった(2002年)。10・2mの結果が出ました。

 東京電力元副社長「これ本当だろうかと それからもしも(外部に)言ったとするとこれは大変なことだということになって地域の人たちにも知れることでしょうから大変なことだとそんなこと起こったら」 安全神話で思考停止
 ここで見られるのは、困難なこと、対策にコストが掛かることについては、逃げて思考停止してしまう姿勢です。電力会社は、安全対策に掛かるコストを恐れて、過酷事故は起きない、としてしまいました。

 電力会社をチェックし国民の安全を確保する役目の筈の政府の委員会でも、過酷事故が起きた時の対策を公に行ったら「逃げなければならないような原発はいらない」と住民が言い出すのを恐れて、過酷事故は起きないことにしてしまいました。安全神話を造り自分たち自身も思考停止してしまいました。

 事実に真摯に向き合い、法則に基づいて熟考し未来予測を行う科学的思考とは程遠い姿です。

図2
公開は大原則の筈です
 日本学術会議は、原子核分野の研究者を中心に、日本で原子力開発を始めようとする1950年代に、原子力開発に伴う危険性を見抜き、安全に原子力の研究開発を進めるために「公開、民主、自主」の原則を提唱しました。

 原子力ムラは、「国民に公開する」という方針を採って来ませんでした。地震の可能性が指摘されても、いい加減な調査で「ない」と言い、大津波の可能性については「存在の証拠が十分でないから対策は取らない」と言い、過酷事故の対策について住民に知らせることもしない、などなど、「都合が悪いと思われることは隠す」という隠蔽体質です。 批判に対して対決する体質
 そしてもう一つ。原発の安全性については、原発開発の当初から、研究者の中からまた市民の間から危惧する声があり、原発開発推進について多くの批判の声が出されました。裁判による差し止め請求も数多くありました。

 しかし、原子力ムラの人々は、批判に対しては、推進の妨害者と捉え、政治闘争的対決で対処して来ました。

 新しい課題に対しては専門家といえども間違えることがあります。批判に対して誠実に応えてこそ正しいことが何かが分かり、前進があります。批判は成長の糧です。

 しかし、原子力ムラの人々は批判に対して対決と隠蔽とで対処して来ました。 国会事故調報告書
 以上、筆者がこの文章で批判して来た原子力ムラの体質は、7月5日発表の国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の報告書でも厳しく指摘されています。

 国会事故調報告書はインターネットから無料でダウンロードできます。目を通されることをお薦め致します。長い報告書ですから、まず要約版から読まれると良いと思います。 国民の理解と納得、信頼
 ある科学技術の成果を社会で利用することを進めるとします。その利用を推進する政策担当者と専門家集団(以下「推進者」と呼びます。原発の利用では原子力ムラになります)を国民との関係で捉えると、推進者は国民に対して「この科学技術の成果は、安全で、国民皆様のお役に立ちますので、研究開発と利用推進に資金を出して下さい」と依頼する、サービスの提供者という関係になるはずです。

 国民の側からは、「安全で、確かに役に立つならば、社会での利用を進めて下さい」と委託することになります。

 民主主義国家では、提案の採否を決めるのは国民です。

 国民が提案の採否を決める時に、提供者の言うように安全で確かに役に立つのだなという「理解と納得」と、提供者の言っていることが確かで、確かにそれを実現してくれるという「信頼」があって初めて委託するということになります。

 日本の原発開発の過程では、この「国民の理解を得、納得と信頼を獲得する」という過程がないがしろにされて来ました。むしろ、科学的な事実と法則に立ち入らずに、事実を隠蔽し幻想を押し付けて来たと言えるのではないでしょうか。

図3
原子力ムラの体質は直ったか?
 野田総理は2012年6月8日、「実質的に安全は確保されている」として大飯原発を再稼働するとの意思表示を行いました。

 その根拠として、「これまで1年以上の時間をかけ、IAEAや原子力安全委員会を含め、専門家による40回以上にわたる公開の議論を通じて得られた知見を慎重には慎重を重ねて積み上げ、安全性を確認した結果であります」としています。

 政府の大飯原発再稼働に関わる安全性確認の過程は、首相官邸のインターネットで見ることができます。

 このことは、公開という点では、前進した部分があります。  

しかし! 安全性確認の検討は原子力安全・保安院を中心に行われました。検討は、原発所内のハードの強化を中心に行われています。

 安全性検討過程では「現在の安全性の確認は、過酷事故を起こさないようにどうするか、のみ検討されているが、過酷事故が起きてしまったら、住民避難等をどうするかなど住民の安全対策を考えるべきである」との指摘が為されました。

 この指摘に対しては「今回の検討はプラントのハード面を中心に技術的知見を取りまとめたものであり、指摘の内容はこの範囲外(です)」との回答が為されています。

 つまり、住民避難をどうするかなどの安全対策は為されていないのです。

 また、これとは別に渡辺満久東洋大学教授から「大飯原発所内には、活断層とそれに連動する破砕帯が存在している可能性があります。活断層直上の建物は地震の時に、ずれに依り極めて重大な被害を受ける可能性があります。また、活断層の近くの地震の揺れは大きくなります。調査が必要です」との指摘があっていました。

 この他にも地震の専門家から、「大飯原発地域にも今までに関西電力で検討されていない大きな地震、津波の可能性がある」との指摘もあっています。

 原子力安全・保安院はこれらの指摘に対して調査をしないまま、「安全」のGOサインを出しています。

 総理大臣の決定は、こうした原子力安全・保安院・推進専門家の安全性の検討の不十分さ、不透明さに言及しないまま為されています。専門家による安全性検討の不十分さを、政治家が政治的判断であるとして覆い隠してはいけません。国民は総理の言葉を信頼できなくなります。 推進専門家の主張の根拠の検討が必要です
 安全神話を語っていながら福島原発事故を起こし、原発の推進者は国民の信頼を失いました。

一度信頼を失った人からの新たな主張(提案)を聞き納得するためには、たとえ主張の主が専門家であっても、その主張の根拠を確認する必要があります。原子力ムラの専門家は、安全神話に見られるように、そもそも主張の根拠を提示しませんでした。

 国民が最も知りたいのは、原発の安全について、どんなことがどの程度検討されて、どの程度安全が保たれると考えられるか、です。そして、その考えが公開されて、批判検討を経て確かにそうだと多数の人が納得する確認作業が行われているかどうかです。

 現在の日本の原発推進体制の下で、読者の皆さんは信頼して原発の推進を任せることができるでしょうか?

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