logo
編集室:佐賀市若楠3−1−15
株式会社 西日本情報センター
電話:0952-33-3155
FAX:0952-33-3166


連載 第4回 放射線の人体への影響とその安全性の考え方

執筆者

村上 明 Kouichi Toyoshima 経歴/東京教育大学大学院物理単位修得退学。1967年佐賀大学着任... ≫詳細


 今なお多くの人たちが福島原発事故由来の放射能・放射線と向き合いながら生活しています。以下では、放射線が私たちの健康にどのような影響を及ぼすのか、そして、その安全性をどう考えればよいのか、などについてお話しします。 放射線、放射能、ベクレル、シーベルトの関係は?
 原子の中心には、直径約1兆分の1pの原子核と呼ばれるものがあります。この原子核のうちある種の原子核(ウランやセシウム137など)は、自然に崩壊し別の原子核になるときに放射線を出します。放射線とは、高速の粒子の流れ(後述のアルファー線やベータ線など)やエネルギーの高い電磁波(後述のガンマ線など)のことを言います。

 放射線を出す能力を放射能と言い、放射能を持っている原子核やそれを含む物質を放射性物質と呼びます。放射能という用語は、一般的に放射性物質の意味で用いられることもあります。全ての放射性物質の放射能強度は時間とともにそれぞれの半減期に従って弱まります。

 放射性物質の量はベクレル(Bq)の単位で表します。放射性物質の原子核はランダムに崩壊しますが、平均して1秒間に1個の割合で崩壊する様な放射性物質の量を「1ベクレル」と言います。1つの崩壊で1個または数個の放射線が出ますから、ベクレルの値は、それから出る放射線の量を知る目安になります。

 一方、放射線の量を表すために、放射線が人体へ及ぼす影響の度合いを示すシーベルト(Sv)を単位として用います。影響の大きさに応じて、ミリシーベルトmSv(=0・001Sv)やマイクロシーベルトμSv(=0・000001Sv)という単位も使われます。ただし、放射線量が1時間あたりか、1年あたりか、あるいは積算のものかによって影響が全く違いますから区別する必要があります。 放射線の性質と種類
 放射線が人体に当たると直接的または間接的に細胞内のDNAを損傷します(図1)。損傷の程度は放射線の線量によって異なります。放射線量が低い時は、DNAの自己修復機能により損傷を受けた大部分のDNAは修復されますが、完全には修復されない場合もあります。このような細胞は、異常細胞として増殖し、人体に障害を引き起こします。細胞分裂が盛んな乳幼児に対しては、この影響が特に強く現れます。

図1


 主な放射線としてはアルファー線、ベータ線、ガンマ線の3種類があります。アルファー線は、生体への影響が大きい(後で述べる内部被ばくの場合に非常に大きな影響がある)が透過力が弱く、薄い紙1枚で止まります。ベータ線は生体への影響は中くらいで、薄い(約数o)金属板で止まります。ガンマ線は生体への影響は小さいが透過力が強く、約数pから数十pの鉛や鉄の板で止まります。 自然から受ける放射線
 放射線には、人が発生させた人工的なものと大昔から自然にあったものがあります。

 私たちが自然から受ける放射線の年間線量は場所によってかなり違います。年間の自然放射線量は世界平均で約2・4ミリシーベルト(以下mSv)ですが、日本平均は約1・5mSvです。さらに、国内でも県によって最大年間約0・4mSvのばらつきがあります。

 国内での年間自然放射線量1・5mSvの内訳は、宇宙から約0・3mSv、大地から約0・4mSv、食物から約0・4mSv、呼吸により空気中から約0・4mSvです(図2)。

 私たちの通常の生活においても、食べ物や呼吸を通して放射性物質が体に入り込んでいるので、そこから出る放射線によって私たちは被ばくしています。このような体の内部からの放射線による被ばくを内部被ばくと呼びます。これに対し、大気、地表など体の外からの放射線による被ばくを外部被ばくと呼びます。外部被ばくは、放射線を遮るとか放射性物質から離れることでその影響を軽減できますが、内部被ばくはこのようなことは全くできません。

図2
人体への放射線の色々な影響
  放射線の人体への影響には身体的影響と遺伝的影響があります。身体的影響とは、放射線を受けた本人に現れる影響で、一度に大量(約250ミリシーベルト以上)の放射能を被ばくした場合にその影響がすぐ(数日から数週間以内)に現れる急性影響と数年から数十年という長い潜伏期間の後に現れる晩発影響があります。ただし、一般的には、晩発影響の症状(がん、白血病など)はその原因が放射線によるものか他の原因によるものかの区別は出来ません。遺伝的影響とは、放射線を受けた人の子孫に現れる影響で確率的に現れる影響でもあります。

 また、放射線の影響を確定的影響と確率的影響に分けることもできます。

 確定的影響では、しきい値(それ以上の線量を被ばくすると影響が現れるという境界値)以上の放射線量を被ばくした時に、被ばくした本人に確実に脱毛、白血球減少などの症状が現れます。一方、確率的影響では、確定的影響のしきい値以下の被ばくでも、被ばくした人のうち誰かにがん、白血病、臓器系統疾患などの症状が確率的に現れます。福島原発事故の直後、政府が繰り返した「直ちに健康には影響ありません」という説明はこの急性影響と確定的影響を指していると思われますが、晩発影響や確率的影響には全く触れなかった政府の説明は一面的で極めて不十分でした。その確率的影響とはどんなものかを次にお話ししましょう。 低線量放射線被ばくの確率的影響とは?
 図3に医療被ばく(日本人の年間平均は約2・25mSv)と自然放射線による被ばく(日本人の年間平均は約1・5mSv)を除いた積算の「被ばく放射線量」が人体に及ぼす確率的影響の様子を、ゼロから数百mSvまでの領域で大まかに示しています。以下では、話を明確にするために医療と自然放射線による被ばくを除いた放射線被ばくを「上乗せ放射線被ばく」、その放射線量を「上乗せ被ばく放射線量」と呼ぶことにします(一般的な用語ではありません)。

図3


 「上乗せ被ばく放射線量」が積算で約100mSv以上では、がんの発生確率はほぼ放射線量に比例して増えることが科学的に認められています。また、積算で約100mSvの時、がんによる死亡者数は確率的に約0.5%増えるとされています。一方、積算で約100mSv以下の領域では、がんの死亡リスクについては確定的なことは分かっていません。この領域における「上乗せ被ばく放射線量と「上乗せ被ばく」により「がんで死ぬリスク」の関係を示したのが図4です。図4の横軸は「上乗せ被ばく放射線量」を、縦軸は「上乗せがん死リスク」の値を示しています。なお、「上乗せ被ばく」がないときにがんで死ぬリスクは、日本人の場合約30%です。

 図4の中のしきい値なし直線モデル(LNT仮説)は、国際放射線防護委員会(ICRP)が採用し、日本を含む多くの国がそれに準拠しています。これは、「上乗せがん死リスク」(確率的影響 )にはしきい値は存在せず、がん死の確率は「上乗せ被ばく放射線量」に比例すると仮定したモデルです。(他のモデルの説明は紙面の関係でここでは割愛します。)

 図4(LNT仮説以外の各モデルのグラフは、各モデルの考えを元に筆者が推察で模式的に描いたもので、おおよその傾向のみを表わしています)からも分かるように、異なるいくつかのモデルや仮説がありますが、どれもまだ科学的に確立したものではありません。低線量放射線被ばくの健康への影響についての研究には、膨大なサンプル数と長期にわたる調査を必要とし、或いはまた最先端の科学を使うため、現在も、それぞれの専門的な立場からの研究が継続中です。

図4


 また、ICRPは一般人の年間被ばく線量限度を 1mSv(ただし、医療と自然放射線による被ばくは除く)とするよう勧告し、日本はこれに準拠しています。ただし、年間1mSvという被ばく線量限度は、放射線安全管理上の一つの目安とでも言うべきものであり、安全か危険かの分かれ目ではないので不必要な被ばくは避けるべきです。 なお、内部被ばくによる影響については別個により詳細な説明が必要ですが、ここではアルファー線による内部被ばくの影響についてのみ触れます。アルファー線を放出する放射性物質(ラドン222やプルトニウム239など)が体内に取り込まれた場合、アルファー線が体内で走る距離は非常に短い(細胞レベル)ので、次のような問題が生じます。

a・アルファー線を放出する放射性物質が体内に入った場合、それを検知することは非常に困難である。

b・アルファー線は約1000分の1p(細胞サイズレベル)以下の非常に狭い領域に大きなエネルギーで集中的に損傷を与えるので人体へ与える影響は非常に大きい。 私たちは、放射線被ばくにどう向き合っていけばよいのか?
 100mSv以下の放射線を一度に被ばくした場合の発がんリスクは、日常生活における受動喫煙や野菜不足などによる発がんリスクとほぼ同レベルと考えられていますが、統計学的には、放射線被ばくによる影響と生活習慣による影響との区別が難しく、明確なことは分かっていません。

 では、私たちは低線量放射線被ばくにどう向き合っていけばよいのでしょうか? 被ばく放射線量が1日約1mSvの宇宙飛行士、年間約1mSvの国際線乗務員、放射線治療患者などは各人それぞれの目的や必要度に応じて、年間1mSvという一般人の被ばく線量限度を念頭に置きながら放射線被ばくに向き合っています。なお、放射線による影響は年齢によって異なり、乳幼児や子どもの感受性は大人に比べて大きいということを十分に認識しておく必要があります。

 自分にとって必要あるいは止むを得ないと思われる被ばくについては、「上乗せ被ばくにより生じる「上乗せリスク(図4参照)を十分慎重に検討した上でそれを容認することも一つの生き方としてあり得ると私は考えます。この時、何が不必要な「上乗せ被ばく」で何が止むを得ないものかを自らの判断で見極めることが最も重要です。

[TOPへ]

特定商取引法に基づく表記プライバシーポリシー
Copyright (C) Nishinihon Information Center. All