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連載 第3回 放射能って何だろう?
〜煮ても焼いても
消えない放射能!〜

執筆者

植原 正行 Kouichi Toyoshima 経歴/京都大学理学部物理学科卒、... ≫詳細


 福島原発の事故から1年以上過ぎましたが、壊れた原子炉の内部の様子は一向にはっきりしません。これからも長く私たちは放射能と向き合って生きなければなりません。そこで放射能とは何かをさぐりに原子や原子核などミクロの世界に降りて行ってみましょう。 原子の話
ー原子核と電子ー

 いきなりですが、「原子って、中心に正の電気を持った重い原子核があって、その周りを負の電気を持ったいくつかの軽い電子が、電気の力で引きつけられて回っているもの」ということを覚えていますか? 話はここから始まります。

 実は、図1のように、電子が回っている領域の大きさは約1億分の何センチぐらいですが、原子核の大きさはその10万分の1、つまり、10兆分の何センチぐらいということが分かっています。

 原子核は、正の電気を持った陽子という素粒子と電気を持たない中性子という素粒子が固く結合した固まりです。電気の力では正電気同士や中性粒子を結合させる事はできません。陽子同士や中性子などを固く結合させるような、電気の力よりもはるかに強い力が存在することを湯川秀樹先生が中間子論で初めて提唱され、1949年、先生は日本人で初めてノーベル賞を受賞されました。

図1

▲原子を半分に切ったイメージ。中心に原子核、電子のいる領域を濃淡で描いた。

 原子は、通常、外を回る電子の数と原子核中の陽子の数が同じで、正負打ち消して電気的に中性ですが、時には、電子数が余分な陰イオンになったり、不足な陽イオンになったりします。原子の個性は変化しにくい原子核の正電気の量で区別され、その陽子数を原子番号と呼んでいます。

 陽子と中性子の質量はほぼ同じです。共に電子の質量の約2千倍なので原子の質量は陽子と中性子の合計数でほぼ決まります。その合計数を質量数と言います。質量数が分かれば、その原子の重さが水素原子の何倍か大体分かります。これが原子の姿です。 原子同士の結合
ー化学反応と分子の誕生ー

 二つの原子が出会うとき、相性が良ければ、双方の電子が反発する核同士の間を取り持って安定した結合状態を生じます。複数の原子が結合したものを分子といいます。例えば、水素原子2個の間に酸素原子が挟まって水の分子ができます。電気の力で生ずるこれらの結合過程、つまり、化学反応では、原子核は元のまま全く変化せず、一緒になった電子の状態だけが変わります。

図2

▲水素と酸素の化合で分子ができるイメージ。原子核は全く元のままで、電子の状態が変わる。

図3

▲このような霧粒が1立方センチの中に何百個もあってやっと目に白く見えるという。

 一組の原子の化学反応で生じるエネルギー変化は、極めて微小です。しかし、とてつもない数の原子が反応に参加します。朝の紅茶から立ち上る湯気の一粒は直径 0.1ミリ程度の霧一粒位だそうですがその霧一粒に含まれる水分子の数は、大ざっぱに言って、1兆の1万倍コくらいもあるのです。だから、水素と酸素が化合して水1グラムができるようなマクロな反応では、約3.6キロカロリーの熱が生みだされます。ちなみに、牛乳100グラムを飲んで生ずる熱量は67キロカロリーだそうです。私たち生物の体内の生化学反応もみなこのような原子・分子レベルの電気的な化合と分解のプロセスです。マクロの世界とミクロの世界の開きの大きさに気が遠くなるほどです。 原子核にもいろいろ
ー同位体と放射能ー

 同じ原子番号の原子の中に、中性子の数が異なるものが混ざっています。例えば、天然のセシウムは原子番号55で質量数133のものしかありませんが、原発で造られたセシウムには質量数134と137のものがあります。化学的な性質は陽子数と電子の状態で決まるので、中性子数が違っても化学的性質は全く変わりません。同じ原子番号で質量数の異なる原子核を持つ原子を同位体=アイソトープといいます(注1)。同位体を区別するとき、セシウム137など、元素名の後に質量数を書いたりします。

 実は、自由な中性子は平均15分で陽子と電子に自然に壊れてしまいます。これがベータ崩壊の原型です。このベータ崩壊では、中性子が陽子に変わると同時に電子も飛び出してきます。化学反応では、化合した後の物質の性質は全く違っても、反応前にない元素が反応後に出て来ることはありません。素粒子の反応では素粒子が消えたり作られたりすることが起こります。勿論、エネルギーや電気の量などが反応の前後でちゃんと釣 り合っているなど、条件が必要です。ここで出てくるのが、皆さんもどこかで耳にしたことがあると思いますが、アインシュタインの「質量とエネルギーの同等性」です。エネルギーの収支勘定には素粒子の質量もすべて入れるべしというのです。中性子の質量は陽子と電子の質量の和よりも少し大きい。電子一個の質量より少し大きい。電子一個分の質量でもエネルギーに直すと、化学反応で一組の原子が出しうるエネルギーの百万倍に近いのです。

図4

▲ベータ崩壊のイメージ。原子番号55のセシウム137は原子番号56のバリウム137に変わり、高速の電子を外に放り出す。

 核の中には中性子があります。原子核でベータ崩壊が起こるとすると、中性子が減って陽子が増えるので、原子番号が一つ上の隣の原子核に移行することになります。しかし、陽子と中性の数のバランスが取れた核では、両者の質量の関係から隣の原子核へのベータ崩壊はできません。ところが、核内の中性子数が多くなると、隣の核との質量制限がくずれて、核内中性子のベータ崩壊が起こります(注2)。これが原子核のベータ崩壊です。ベータ崩壊は非常に広い範囲の原子核で起こっています。原子核の変化で生ずる電子線をベータ線といいます。不安定で自然に壊れる同位体を放射性同位体、あるいは、放射性核種と呼びます。放射性同位体の中には、ベータ崩壊の直後にガンマ線を出してやっと落ち着く場合もあります(注3)。ガンマ線は原子核の変化に伴って出てくる光の仲間で、波長が極めて短く、可視光線などに比べて百万倍も高いエネルギーを持ちます(注4)。

 ラジウムやウランのように重い原子核になると、陽子2個と中性子2個でできたアルファ粒子を放出して自然に壊れます。これがアルファ崩壊です。

 このように、放射能とは不安定でエネルギーの大きい放射線を放出する能力であり、その能力を持つ放射性同位体のことでもあります。よく耳にする半減期というのは、放射性同位体の量が半分に減るまでの平均時間のことです。半減期毎に最初にあった量の 1/2、1/4、1/8……のように減って行きます。

図5
核分裂
ー放出エネルギーと二次放射能ー

 原子力発電所の発電方式は、熱で水蒸気を作り、水蒸気が噴出する力でタービンを回して発電します。その点では火力発電と同じですが、熱を作るメカニズムは石油の燃焼のような化学変化とは根本的に違い、ウラン235のような重い原子核の核分裂のエネルギーを使います。ウラン235が中性子を吸収して極度に不安定になると、ウラン核は半分くらいの質量数の二つの原子核A、Bに分裂し、同時に複数の中性子を放出します。この1回の核分裂で、一組の原子の化学反応で出てくるエネルギーの千万倍もの巨大なエネルギーが放出されます。一つの中性子が吸収されて、複数の中性子が出てくるので、連鎖反応が可能です。連鎖反応は原子炉の中ではコントロールされて進み、原爆では瞬間的に進みます。

 もう一つ重大なことは、核分裂で生まれた核AもBも不安定で、ベータ崩壊をして核a、bに壊れます。aもbも更に壊れる場合もあります。これらのベータ崩壊でも大きなエネルギーが熱となって放出されます。だから使用済み核燃料も冷やし続けなければなりません。

 これまでの日本の原発の使用で、高い放射能を持った使用済み核燃料が大量に蓄積されています。しかし、その最終処分方法は未解決です。世界でも、わずかに、フィンランドのオンカロに10万年先を見込んだ使用済み核燃料の集積所建設が進められているだけです。これほどの未来の人類にも、原発に頼る今の私たちはとてつもない負の遺産を残すことになるのです。

図6

▲核分裂のイメージ。生成AもBも放射性核。nは中性子。 放射能被害に備えるには
 化学反応或いは生化学反応は陽子数と電子の状態で決まることは述べました。だから同じ元素なら、安定な元素でも放射性同位元素でも、生化学的には全く同じ性質の元素として振る舞います。放射能は、煮る、焼く、燃やす等の化学変化では決して消えません。しかも、セシウム137やストロンチウム90の半減期はほぼ30年と長く、10分の1に減るのにおよそ100年もかかります。安定な物質を混ぜて放射能の割合を薄めても、放射能の量そのものは減りません。高圧ホースで下手に徐染をしても 場所が変わるだけになりかねません。崩壊しつくさない限り放射能は無くなりません。

 放射線源にはカリウム40やラドンなど天然・自然のものもありますが、そこに原爆と原発で造られた人工放射能が新たに加わってきたのです。低線量被曝の被害が未だ明確でない現在、放射能被害を予防する原則は、少なくとも妊婦、子供達や若い人たちは、人工放射能の被曝、特に内部被曝をできるだけ避けることだ思います。

注1…
同位元素とも言います。同位とは周期律表の同じ位置、同じ原子番号をもつこと。
注2…
原子核によっては、安定な核よりも中性子数が少なくて、不安定になるものがありますが、ここでは触れません。
注3…
このときに出るガンマ線は核種を決めるのに役立つ。
注4…
X線は原子核でなく、電子由来の高エネルギーの光。

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