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連載 第2回 食品の放射能汚染から健康を守る
〜データを読むための常識〜

執筆者

豊島 耕一 Kouichi Toyoshima 経歴/佐賀大学理工学部教授。九州... ≫詳細

地元スーパーの食品からも放射能
 福島原発災害のもっとも身近な影響としては、放射能で汚染された食品が私たちの周りにも出回っているかも知れないという不安でしょう。私自身の経験でも、昨年秋に久留米市のあるスーパーで「福島県産」と表示して売られていた桃を、研究室のガンマ線検出器で測ってみると、はっきりと放射性セシウム(注1)が検出されたのです。数値そのものは現在の規制値と比べてもその約4分の1と低かったのですが、それでも研究室のあり合わせの装置で十分に測れることに少々驚きました。もちろんガイガー・カウンター(注2)で測れるレベルではなく、一般の消費者にはこのような測定は出来ません。放射能の単位「ベクレル」での表示もなく店頭に堂々と陳列されていれば、客は測定値が「ゼロ」だと思って買うのではないでしょうか。装置に入りきれなかった一切れを食べてみましたが、とても美味しい桃でした。「この桃には何の罪もないのに」と思ったものです。 基準値は引き下げられたが
 原発事故の直後に政府は、食品に含まれる放射能の規制値を大きく引き上げ、このため穀類や肉など多くの品目で輸入品の規制値(370ベクレル/kg)より高くなる(つまり輸入は出来ないが国内流通は出来る)という矛盾が生じるほどでした。今年4月1日から実施された新しい「基準値」はさすがにずっと厳しくなりました。もっとも緩い品目でも放射性セシウムに対して100ベクレル/kgと、それまでの5分の1です。とは言うものの、この値は原子力発電所の解体などで出てくる廃棄物を「安全に再利用できる基準」と同じなのです。建材などに再利用する基準と人の口に入る物の基準が同じというのは、そうとう違和感はあります。

 下表に日本とEU、ウクライナの規制値を比較しています。EUの基準は1987年に制定されたもので非常に高かったのですが、福島原発事故の後、日本からの食品に関しては急きょ日本と同じ基準に合わせられました。ウクライナはチェルノブイリ事故の直後は高い基準値でしたが、このようにおそらく国際的にも最も厳しい値になっています。また、ここだけ表が下にふくらんでいるように、食材ごとに細かく基準値を決めています。これは食生活のパターンを計算に入れて被ばく量を綿密に見積もったためと思われます。 「安全値」ではなく「がまん値」
 以前に比べれば、そしてこの基準値が厳格に守られれば、かなり安心ということになりましたが、しかし放射能や放射線には「安全値」というのはありません。弱い放射線による健康への影響の主なものは、何年も後になって、ある確率でガンになるということです。そしてこの確率は受ける放射線が少なくても放射線の量に比例すると見なされています。したがって基準値というのは「がまん値」として受け取らなければいけません。(「これ以下は影響なし」というレベルがあるという説もありますが、確認はされていません。)

 また、測定が100%綿密になされているかどうか、産地表示などがきちんと守られているかどうか、勝手にブレンドされていないか、加工食品の原料はどうかなど、これから市民が監視していかなければなりません。

 放射性物質は自然界にも存在します。代表的なものはカリウム40で、私たちの体の中に体重1キロあたり約67ベクレルあります。だからといって「放射性セシウムを少々取り込んでも大したことはない」と考えたら間違いです。新たに取り込まれる放射能はこれに「上乗せ」として効いてくるのです。また、この天然のカリウム40もガンなどの原因になっているかも知れません。 消費者としての対策は?数値の意味は?
 このような状況に私たちはどう対処すればいいのか、どうすれば安全な食生活が出来るのかを少し考えてみたいと思います。食品に含まれるかも知れない放射能から身を守る原則は、大きく言えば次の二つです。

(1)安全な食品を選ぶ 

(2)調理などの時に放射能を減らす

 まず(1)の「安全な食品を選ぶ」ということですが、そのためには産地がはっきりしているか(偽装されればお手上げ)、あるいは食品に含まれる放射能がきちんと測定されていることが前提です。測定も、全量に対してなされることはまずなく、一部を抜き取って調べる「サンプル測定」ですし、測定されたとしてもベクレル数まで表示されることは今のところほとんどありません。放射能についての表示があったとしても「基準値以下」とか「不検出」というものでしょう。そこで、これらの意味を理解しておくことが必要です。

 「基準値以下」の場合は基準値がわかれば最大どのくらい含まれるかがわかるわけです。「不検出」も実は同様で、使った測定器では「測れなかった」という意味でしかありません。つまり「その測定器と測定方法で測れる値(検出限界)より小さい」ということです。もちろん、その値はゼロと言っていいほど小さいかのも知れません。逆に、「不検出」のものでもたくさん足し合わせるとけっこうな数値になるかも知れないということです。

 この「検出限界」は装置の種類や測定時間によって大きく変わります。装置でもっとも高感度なのはゲルマニウム検出器で、次いでシンチレーション・カウンタと言われるものです(先に述べたように,食品汚染はガイガー・カウンタでは測れません)。測定時間については、測定限界を1ケタつまり10分の1に下げようとすると、およそ100倍の時間をかけなければなりません。たとえば50ベクレルまで測るのに1時間であれば、5ベクレルなら4昼夜もかかるのです。

 なによりも国や自治体が責任を持って測定し公表することが重要です。また最近は、福岡市の「Qベク」など市民団体などによる民間の測定室も増えています。それなりにお金もかかるので、仲間と一緒になって依頼するとか、あるいは出費を厭わないボランティア精神が必要です。このようにして信頼できる情報が市民に広く開示されるようになれば、風評被害もなくなるでしょう。最初に桃から放射能が検出されたことを紹介しましたが、実は福島県産の米についても測っていました。昨年ある集会で買った2011年産のコシヒカリですが、放射性セシウムは検出されませんでした(検出限界は10ベクレル/kg程度)。もちろん全部おいしくいただきました。

放射能もふつうの汚れの除去と変わらないが、決して消えない
 次に(2)の「調理時の工夫」についてです。放射性物質といっても、普段は、つまり放射線を出すまでは、ふつうの物質と全く変わりません。つまり放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)も、放射性でないセシウム(セシウム133)も、環境の中や生物の体内での振る舞いは全く同じです。つまりこれらは原子の重さがわずかに違うだけで、化学的な性質は全く同じなのです。ですから、もし食材が放射性物質で汚染されている疑いがあるとき、これを取り除いたり減らしたりする方法は、通常の化学物質などの汚染に対するものと同じです。つまり、表面に放射性物質が付いていると思われれば良く洗うということです。汚染物質の種類によっては、煮ることで煮汁に出るというものもあるでしょう。

 保存料として加えられる過酸化水素などの化学物質や細菌などとの違いは、放射性物質は煮ても焼いても全く消えないし、減りもしないということです。単に「移動させる」ことしか出来ません。これが放射能汚染の大きな特徴です。

放射性セシウム以外の汚染
 福島原発事故で現在問題になっている放射性物質は、セシウム134と137です。これはベータ線(高速で飛ぶ電子)とガンマ線(X線と同じ仲間)の両方を出します。X線は人体や物質を貫通しますが、ガンマ線はもっと物を通り抜けます。このため外に飛び出してくるので、検出器で測りやすいのです。やっかいなのはベータ線しか出さないストロンチウム90(骨に行く)や、アルファ線という体内では特に危険な放射線を出すプルトニウム(注3)です(図1参照)。プルトニウムもほとんどガンマ線を出しません。

 このようなガンマ線を出さない放射性物質を検出するには、非常に特殊な装置や熟練した技能が必要なので、いきおい調査や検査のスピードは非常に遅くなります。市民団体の測定所ではおよそ手が出ません。今のところこれらの物質はセシウムに比べてわずかしか検出されていませんが、警戒が必要です。またこれからはセシウムも含め「生物濃縮」に注意しなければなりません。
図1

▲長崎大学・七條和子氏らが、細胞中で放射線が走った跡の撮影に成功。長崎被爆者の体内に取り込まれたプルトニウムは、死後も保存された組織標本の中でアルファ線を出し続けている。
(長崎医学会雑誌83巻特集号341-344、2008年) 地元の食材を守る
 幸いなことに九州は今のところ今回の放射能汚染から免れています。もちろんゼロではありませんが、黄砂に由来する放射能と比べられる程度でしょう。最近「被災地支援」の名目で震災がれきを受け入れるという話がありますが、これはたいへんな問題です。放射能は拡散してしまえばおしまいです。環境省は今年2月に東北・関東の8県の薪とその灰に含まれる放射能の量を発表しました。それによると福島だけでなく、この地域は広範囲に放射性セシウムで汚染されていることが分かります。震災がれきも同様の汚染があると見なければなりません。これを「広域処理」すれば、汚染が全国に広がることは明白です。このような「放射能分かち合い」は無意味なだけでなく危険です。がれき処理は現地で出来るよう支援することが重要です。

 原発事故の直後からテレビはじめ大手メディアは事実を歪めたり隠したりする政府の「大本営発表」に荷担したことがあきらかになっています。これを経験した以上、がれき受け入れが進まないのが復興の障害であるかのように言うメディアをそのまま信用するのはあまりにも愚かというべきでしょう。
図2

▲外部被ばくは、地面など体外からのガンマ線により体がほぼ均一に被ばく。内部被ばくは、食品や呼吸などで体内に入った放射性物質により体の内部から被ばく。

注1…
カリウムやナトリウムと化学的性質が似ており、アルカリ金属と呼ばれる。放射性セシウムの半減期はセシウム137が30年、セシウム134が2年。
注2…
構造が簡単で安価な放射線検出器。ガンマ線とベータ線を測れる。ただしガンマ線に対する感度は非常に低いため、弱い放射能は測れない。
注3…
自然界に存在しない元素で、原子炉の中で作られる。主なものはプルトニウム239で、核燃料になるがアルファ線を出す半減期2万4千年の放射性物質。

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